相続手続きの中でも、誰がどの財産を引き継ぐかを明確にする「遺産分割協議書」の作成は、多くの人にとって悩ましいステップです。「何をどこまで書けばいいのか」「誰と話し合えば成立するのか」といった疑問を抱えながら進める方も少なくありません。
本記事では、以下のポイントに絞って解説します
- 遺産分割協議書が必要となる具体的なケースと役割
- 作成前に確認すべき相続人・財産の範囲
- 協議書作成時の注意点と専門家への相談の重要性
相続をスムーズに進めるためにも、基本をしっかり押さえておきましょう。ぜひ最後までご覧ください。
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相続制度は民法で定められている
相続に関する制度は、日本の基本的な法律である民法によって規定されています。
民法は、個人間の権利関係を定める法律であり、相続については第五編「相続」で詳細に取り扱われています。具体的には、誰が相続人となるのか(法定相続人)、各相続人の取得割合(法定相続分)、遺言の効力や方式、遺留分などの権利、さらには相続放棄や限定承認といった手続きの方法まで、多岐にわたる内容が定められています。
これらの規定は、被相続人が遺言を遺さなかった場合にも、遺産が公正に分配されるように設計されています。また、相続に関する紛争を防ぎ、円滑な承継が実現できるように、法的な枠組みとして重要な役割を果たしています。したがって、相続に関わる際は、民法の規定に沿って適切に手続きを進めることが求められます。弁護士や専門家に相談することで、より確実な対応が可能となるでしょう。
相続税法の規定には、民法の規定と違う箇所がある
相続に関する法律には大きく分けて「民法」と「相続税法」があります。民法は財産の承継ルールや相続人の権利義務について定めており、家族法の一部として位置づけられています。
一方の相続税法は、相続によって取得した財産に対してどのように課税するかを定めた税法です。この二つの法律は、相続という共通テーマを扱っているにもかかわらず、その趣旨や目的が違うため、同じ事象に対する取り扱いが食い違うことがあります。
たとえば、誰を「相続人」とみなすか、相続人の人数をどのように数えるか、財産をどの割合で分けるかといった点では、民法と相続税法で異なる扱いがされることがあります。こうした違いは実務にも大きく影響し、制度の理解が不十分だと、相続手続きが滞ったり、誤った税額で申告してしまうおそれもあります。中でも注意すべきなのが、養子縁組の人数制限や相続放棄に関する取り扱い。
これらは民法と税法で解釈が異なる代表的な例として知られています。相続実務を進めるうえでは、両者の法律の違いを十分に理解し、慎重に対応することが求められます。
養子と認める数
養子をめぐる扱いも、民法と相続税法とで違います。民法では、被相続人が何人養子を迎えていようとも、そのすべてが法律上の子として認められ、法定相続人となります。つまり、養子も実子と同じ扱いを受けることが原則です。これは、家族法における親子関係の法的効力を重視した取り決めといえるでしょう。
しかし、相続税法では違う制限が設けられています。相続税法においては、養子の数に上限があり、相続税の計算上は「控除額を増やすためだけに養子縁組すること」を防ぐため、一定数しか相続人としてカウントされません。具体的には、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までの養子しか、法定相続人として税務上認められません。これにより、養子の人数に応じて基礎控除額が過度に膨らむことを抑制する狙いがあります。
たとえば、被相続人に実子が1人、養子が3人いる場合、民法上は4人の相続人として扱われますが、相続税法上は2人(実子1人+養子1人)としてしか基礎控除の計算に反映されません。税務処理においてこの違いを理解していないと、控除額や税率の区分を誤ってしまう可能性があります。相続人の人数に基づいて控除額や課税額が決まるため、相続税申告にあたっては民法とは違う相続税法の規定を正しく把握しておく必要があります。
相続放棄した相続人に対する扱いについて
相続放棄に関しても、民法と相続税法の間に明確な違いがあります。民法では、相続人が家庭裁判所に申し立て、正式に相続放棄を認められると、その人は「初めから相続人ではなかったもの」として取り扱われます。したがって、遺産分割協議に参加する必要もなくなり、相続に関連する一切の権利義務から解放されることになります。
一方で、相続税法では事情が民法と一致しない点があります。相続放棄をした人であっても、相続税の基礎控除額を算出する際には「法定相続人の数」としてカウントされるのです。これは、控除額の公平性を保つための制度設計であり、仮に一部の相続人が放棄したとしても、被相続人の本来の相続関係に基づく控除を適用するためです。
たとえば、相続人が子ども3人で、そのうち1人が相続放棄した場合でも、相続税法では3人を相続人として数えることになります。その結果、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」となり、相続放棄の有無によって控除額が変動することはありません。これにより、残された相続人の納税額に不利な影響を与えないようにしています。
ただし、この取り扱いを誤解して、控除額を少なく見積もりした場合や、放棄者を除外して申告してしまうと、税務署からの修正指導や追徴課税の対象となる可能性もあります。したがって、相続放棄をした相続人がいる場合でも、相続税の申告では「法定相続人」としてカウントするという税務上のルールを十分に理解しておくことが重要です。
相続トラブルを防ぐために|法定相続人と相続分の正しい理解
相続に関するトラブルは、遺産の分配方法や相続人の認識の違いから生じるケースが多く見られます。
こうした争いを避けるためには、法定相続人とその相続分についての理解が不可欠です。遺言書がない場合、民法で定められた相続のルールに従って遺産を分けることになりますが、そのルールを知らないまま手続きを進めると、思わぬ誤解を招きかねません。
相続の順位(法定相続人)について
法定相続人には順位があり、被相続人の配偶者は常に相続人となりますが、それ以外の血族には順位があります。第1順位は子や孫といった直系卑属、第2順位は父母や祖父母などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹です。先順位の相続人がいる場合には、後順位の者は相続人にはなりません。誰が法定相続人にあたるのかを事前に把握しておくことで、混乱を防げます。
相続する割合(法定相続分)について
民法では、法定相続人の種類に応じて相続分も定められています。たとえば、配偶者と子が相続人の場合、各自が2分の1ずつを相続します。子が複数いる場合は、その2分の1をさらに均等に分けます。親や兄弟が相続人となる場合も同様に、法律に基づいた割合で分配されます。相続人間の公平性を保つ仕組みである一方、家族事情によっては調整が必要となることもあります。
配偶者の法定相続分に関する民法改正の経緯
かつての民法では、配偶者の相続分が現在よりも低く設定されていた時期がありました。しかし、社会構造や家庭の在り方が変化したことに伴い、1980年に民法が改正され、配偶者の取り分が増加しました。これにより、配偶者が子と相続する場合は2分の1、親と相続する場合は3分の2となっています。この改正は、配偶者の生活保障を重視する時代背景を反映したものといえるでしょう。
相続の承認と放棄
相続が発生した際、相続人は遺産をそのまま引き継ぐか、あるいは放棄するかを選択できます。
この判断は、民法に基づく「相続の承認または放棄」という制度により、3か月以内に行わなければなりません。被相続人の財産には預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金や未払い金などのマイナスの財産も含まれているため、内容を確認せずに対応すると思わぬ負債を抱える可能性があります。
単純承認
単純承認とは、遺産を無条件にすべて相続する方法で、明示的に手続きをしなくても、相続人が遺産の一部を使用したり、熟慮期間(3か月)を過ぎたりすると自動的に単純承認したとみなされます。承認後は被相続人の債務も含めてすべてを引き継ぐことになるため、借金があるケースでは慎重な対応が必要です。
限定承認
限定承認は、相続財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ方法で、プラスの財産を超える借金があった場合に自分の財産まで責任を負わない仕組みです。ただし、手続きには相続人全員の同意が必要であり、家庭裁判所への申述など手間がかかるため、実務ではあまり利用されていません。
相続放棄
相続放棄は、すべての相続を拒否し、最初から相続人でなかったものと扱われる制度です。放棄を希望する場合は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。借金の多い遺産や、関与したくない相続において適した手段といえますが、放棄後の撤回はできないため慎重な判断が求められます。
遺言書による相続の基本
相続が発生した際、遺言書があるかないかによって手続きの進め方は大きく違います。
遺言書は、被相続人の最終意思を法的に残すものであり、法定相続よりも優先されます。つまり、被相続人が自分の財産を誰に、どのように分けたいかを自由に指定できる重要な手段です。遺言がない場合は、相続人全員で遺産分割協議する必要があり、意見の不一致によって争いに発展することも少なくありません。その点、遺言書があればスムーズな相続につながる可能性が高まります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が紙に手書きで作成する最も身近な遺言方式です。公証人を介さずに自分だけで作れるため費用もかかりませんが、法律で定められた要件を満たさないと無効になる可能性もあります。全文の自筆、日付、署名、押印が必須であり、ミスがあれば遺言の効力が認められないこともあるため注意が必要です。また、家庭裁判所での「検認」が必要で、発見が遅れると相続手続きが滞る場合もあります。
公正証書遺言
一方、公正証書遺言は、公証人が作成し、公証役場に原本が保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、検認手続きも不要です。費用や証人の準備は必要ですが、形式の不備による無効の可能性が低く、相続トラブルを未然に防ぐ手段として高く評価されています。確実に遺言内容を実現したい人にとっては、公正証書遺言が確実な方法といえるでしょう。
遺産分割協議書の作成とそのポイント
遺産分割協議書は、相続人全員が遺産の分割方法について合意した内容を文書にまとめたもので、相続手続きにおいて重要な役割を果たします。
まず、遺産分割協議する前に、相続人と相続財産の確定が必要です。相続人の確定には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、法定相続人を明らかにします。相続財産の確定では、預貯金、不動産、有価証券、債務など、すべての財産を漏れなく把握することが求められます。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要であり、一部の相続人が欠けた協議は無効となります。協議が成立したら、その内容を遺産分割協議書として文書化します。協議書には、被相続人の情報(氏名、死亡日、最後の住所など)、相続人全員の氏名と住所、各相続人が取得する財産の詳細を記載し、相続人全員が署名・押印します。
また、遺産分割協議書は、不動産の相続登記や預貯金の名義変更、相続税の申告など、各種相続手続きにおいて提出が求められることがあります。特に相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内と定められているため、遺産分割協議書の作成もそれに間に合うように進める必要があります。
遺産分割協議書の作成には、法的な要件や記載内容に注意が必要です。不備があると、相続手続きが滞る原因となるため、専門家に相談することも検討しましょう。
民法に定められている相続制度に関してよくある質問
民法に定められている相続制度に関してよくある質問をご紹介します。
民法でいう遺産とは何ですか?
民法上の遺産には、被相続人の死亡時に存在する財産的権利と義務が含まれます。具体的には、預貯金、不動産、株式などのプラスの財産だけでなく、借金や未払いの税金などのマイナスの財産も遺産とみなされます。加えて、損害賠償請求権や貸付金など、金銭的価値のある権利も相続の対象です。ただし、扶養義務や年金受給権のような一身専属的な権利・義務は相続されません。遺産の範囲を正確に把握しておくことは、相続人が承認・放棄を適切に判断するうえで欠かせないステップです。
民法で相続人が欠格になるとどうなりますか?
民法では、相続人に不正行為があった場合に相続権を失わせる「相続欠格」の規定があります。たとえば、被相続人を故意に死亡させた場合や、遺言書の偽造・破棄などが代表的です。これに該当すると、その者は法的に相続人としての資格を失い、遺産分割協議に参加することもできなくなります。ただし、欠格者の子どもには代襲相続が認められるため、不正する者の子が相続することは可能です。相続の公正性を守る制度として重要な役割を果たしています。
民法に定められている相続制度についてのまとめ
ここまで、遺産分割協議書が必要となる具体的なケースや、作成前に確認すべき事項、作成時の注意点などについて詳しく解説してきました。要点をまとめると以下の通りです。
- 遺産分割協議書は、複数の相続人がいる場合に必ず必要になる重要書類
- 協議書作成前には、相続人と相続財産の範囲を正確に把握することが不可欠
- 記載内容の不備や記入漏れを避けるため、専門家への相談も検討すべき
遺産分割協議書は、円満な相続を実現するための土台となる書類です。今回の記事が、手続きを正しく進めるための手助けとなれば幸いです。最後までご覧いただき、ありがとうございました。